• Sさんと『言い寄る』を読んで(後編)

    〈神尾の返事を読んだ Sさんから神尾への手紙〉

     

    まりさん

     

    こんにちは。お返事ありがとうですー。

     

    脳内キャスティング!!! 乃里子は私も満島ひかりちゃん!
    読んでてぼんやり思ってたとき、
    赤い衣のノースリーブの服の描写があって確信したんです。

     

    そんな乃里子が、五郎にほれて、でもまったくなびかず 美々のおうちに
    ただいま なかんじで帰ってくる。 せつない。。。

     

    で、あったかもしれない刺しゅうは、
    そのときに乃里子がもっていた、
    刺しゅうつきの小さめなかばん。(サテンぽい素材)

     

    きんちゃくになっていて、
    そこにカバンと同系色の お花の刺しゅうがついている。

     

    きんちゃくには持ち手がついていて、
    その持ち手ときんちゃくの部分をがしっとつかんで
    よっぱらいながら、美々の部屋をあとに。

     

    モテる女というのは、たいがいカバンは小さめな気がする。
    乃里子もモテるのに、ああせつない(何回言う…)
    若いせつなさじゃなくて大人のせつなさ。
    年を重ねると、失恋って余計ダメージが強くなる気がします。

     

    でもそのあと、剛のお母さんがきてくれて
    乃里子がつくった人形をほめてくれて、変わっていく乃里子のこころ!
    心をほぐしてくれて、私までなんだか救われた気がします。
    メリヤスと絹でつくった人形、きっとすてきなんだろうなー。
    そして人形の服にある乃里子のイニシャルの刺しゅう!

     

    昔、幼稚園のころ先生に、
    私の名前が刺しゅうしてあるふくろをいただいたことがあって
    うれしかったことを思い出しました。

     

    名前の刺しゅうってなんだか特別な気がして
    私はその風景を35年たっても思い出します。

     

    そして話はそれましたが
    『言い寄る』の続編『私的生活』をよんでいます。 切ない…

     

    次の作品で乃里子たちが幸せにつながってくれたらいいなと思い
    注文しました!『苺をつぶしながら』

     

    『刺繍小説』にも載ってましたねー!
    まりさんが描いてたスタイリングがかわいかったー!
    よりいっそうよむのが待ち遠しくなりました。

     

    そうそう、『刺繍小説』には私もすきな本があったり
    よんだことのない本にもたくさん出会えてうれしかったです!
    『女生徒』のページに出てきた刺しゅうは
    なんだかとても美しく強く どきりとしました。

    太宰治は、教科書でしかよんだことないけれど よんでみたくなりました。

     

    それではまたー!
    こちらは、わたあめみたいな雲がもくもくとでてきて、
    夏本番なかんじです。

     

    まりさんもお身体きをつけて下さいねー。
    今度いっしょにすいかのたねとばしましょう。

     

    Sより

     

     

    * * * *

     

    〈Sさんからの手紙を読んだ 神尾の最後の手紙〉

     

    Sさま

     

    こんにちは。お返事をありがとうございます。

     

    幼稚園の刺繍の思い出、すてき…!!
    名前の刺繍って、不思議な魔法がありますよね。

     

    ちくちく縫うひと手間って、
    ちいさな子どもにもちゃんと伝わるのかもですね。
    それか、Sさんのお洒落心は
    幼稚園のころには開花していたってことかも??

     

    “あったかもしれない刺繍”のお話、 ありがとうございます!!!

     

    美々のお家でシチューを食べるシーンですね!!

     

    私は『言い寄る』で“あったかもしれない刺繍”を妄想するなら
    お正月の乃里子と剛がおせちを食べるシーンかなぁ… って思ってたんですけど、

     

    この“想像がふくらむシーン”って、
    きっと、“すきなシーン”なんだろうなって思うんです。

     

    なので、Sさんがちょっと切ないシチューのシーンをチョイスしたのが、
    やさしいSさんらしいな〜と思いました。

     

    さて、私も同じシーンで妄想してみましたよ♡

     

    たしかに、小さいバッグをキュッとつかんでいそう!!
    まだケータイが無い頃だから、中身はおさいふ、カギ、リップくらい?

     

    気心の知れた美々の家へ行くから ラフなかっこうにサッとコートを羽織って…。

     

    ブランドへデザイン提供もする乃里子だから、
    そのバッグの刺繍は乃里ちゃんのデザインかもしれないですね!!

     

    あー、たのしい!!!
    こういう妄想ってひとりでもたのしいけれど、
    シェアするのもたのしいんだなぁ…っていうのが、発見でした。

     

    まだまだ話したい気持ちが尽きないですが、今日はこのへんで。

     

    本日、東京も34℃です。
    こんな日は涼しい部屋でゴロゴロ読書がしたくなりますね。

     

    神尾茉利

     

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    SさんはビブリオアパートメントというWEBサイトの管理人さんです。
    この手紙は同じ本を読んで“あったかもしれない刺繍”を想像する
    『刺繍小説』のスピンオフ企画で、
    今回空想した“あったかもしれない刺繍”も神尾が具現化しました。
    その作品と本編はこちら

     

    『言い寄る』(田辺聖子/講談社文庫)