• ハートに火を

     学生のとき、「私は生きにくい性格」と何気なく友人に言ったことがある。学校での集団生活が苦手だったのだ。すると友人から「自分のことをそう言ってしまうのはいい状態ではない」と心配され、「私はいい状態ではない」という魔法にかかった気がしてしまった。今なら心配してくれた友人の言葉もわかるけれど、以来「生きにくい」はあんまり使わないようにした。こういう魔法を私もだれかにかけてしまっているはずで、対人関係はむずかしいと思ってしまう。

     

     先月出版され話題を呼んでいる山崎ナオコーラさんのエッセイ『ブスの自信の持ち方』を読んで、そんなことを思い出した。

     

     『ブスの自信の持ち方』は、ナオコーラさんが経験した「生きにくさ」をもとに書かれている。ナオコーラさんにとっての「生きにくさ」の経験が容姿に関することだったため、『ブスの自信の持ち方』は容姿を軸にした内容になっているけれど、読む人それぞれが頭に浮かぶ内容に置き換えて読むことができる。

     

     私がタブーにしてきた「生きにくい」という言葉が堂々と使われるこの本を読んで、「生きにくさ」とは「=困惑」 であったことを知った。なんだ、私はただ困っていたんだ。

     

     こんな私でも生きていけるんじゃんと思えたのは、つい最近だ。一人でコツコツできる仕事をして、家族となかよく暮らす。自分で選んだ小さなコミュニティをせっせと大事することは自信に繋がった。今も苦手な場面では自信を失うし落ち込むけれど、また本来の自分を取り戻そうと思う。

     

     

     権利、人権ってなんだろう?
     ニュースを見ていて湧いた疑問の答えを、専門書はむずかしそうなので、小説を読むなかで探してみた。様々な人生が描かれているから、いろいろな生き方や考え方を尊重しよう、と物語のなかでは自然と思える。けれどもちろん、なんでも尊重すればいいわけではない。小説では、そして日常生活では、「権利」と「なんでもあり」の線引きがわからないことが多かった。その線引きを、『ブスの自信の持ち方』を読んで、私はやっと理解できたと思う。

     

     『ブスの自信の持ち方』は、だれにでもわかる権利の本だ。
     だれでも、本来の自分のままで生きていい。変えたければ、変えていい。それはなぜか、ということがわかり腑に落ちた。私も他人の権利を奪う人間ではなく、手助けする人間になりたい。

     

     ナオコーラさんは今までもずっと小説を通して困っている人がそのままでも困らなくなる提案をしていた。そして、同じメッセージを物語に乗せずに表現したこの『ブスの自信の持ち方』はまっすぐだ。こんな本を探していた。もっと早く出会いたかったけれど、いつ出会っても遅くはなかったと思う。「私が社会を変える」とナオコーラさんが灯す覚悟の火は、私のハートにも火をつけたみたいで、温かい。

     

     本には、校正者や印刷会社などを記す、奥付というページが巻末にある。通常は名前だけ表記されるが、『ブスの自信の持ち方』ではプロフィールと共に「目標は」という一文が添えられていて、一気に胸が熱くなった。

     

     私の目標はやっぱり「いい想像をする」だ。
     加えるなら、「いい想像をする。いい想像で社会を変える」としたい。

     

     

    ・・2019.8・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    『ブスの自信の持ち方』(山崎ナオコーラ/誠文堂新光社)